池谷裕二の好きなジャズ名盤

1.噛みしめるように聴き込んでもOK、気軽に聴き流してもOK。このページでは、初心者でもマニアでも幅広く受け入れられそうだと、私自身が感じているアルバムを挙げてみました。
2.ビッグバンドよりは室内楽的な小編成が好みですので、ワンホーン(管楽器が一人)に限定して紹介します。名盤はこれ以外にも多数ありますが、小規模のほうが箱庭的でミュージシャンの個性がわかりやすいと思います。
3.隠れた名盤を衒言するのでなく、定評のある名盤を取り上げるように心がけました。
4.BGMとしても耐えられるよう、録音状態が悪すぎるものは避けました。ライブ録音も避けました。
5.上記の理由から、すでに評価が安定した1960年前後のハード・バップがリストの大半を占めます。
6.私の好みは、過剰に刺激的であったり、扇情的であったり、汗臭かったり、意図的に芸術的であったり、不器用に革新的であったりしないことです。なぜなら音楽は本質的に娯楽だから。音を楽しむと書いて「音楽」。ともあれ楽しくなくては。


以下、項目に分けて、好きな順に並べてゆきます。


 テナー・サックス
 アルト・サックス
 トランペット
 トロンボーン
 番外編:ヴォーカル




テナーサックス(ワンホーン)

サキソフォン・コロッサス/ソニー・ロリンズ(1956年録音)
これを真正面から推薦するは今さら気恥ずかしいのですが、やはり第一にリストすべき名盤。朗々と紡がれるロリンズのアドリブだけでなく、リズム・セクションも含めた全4名のバランスが教科書的。ロリンズは『ニュークス・タイム(1957年録音)』でもメンバーの歯車が噛み合い推進力溢れる演奏を披露しています。
 Sonny Rollins — tenor saxophone
 Tommy Flanagan — piano
 Doug Watkins — bass
 Max Roach — drums

ザ・ケリー・ダンサーズ/ジョニー・グリフィン(1961-2年録音)
運動神経に優れたマッチョが余裕をもって奏でる、堂々とした演奏が売り。豪快なバラードも見事。バリー・ハリスのピアノがよい出汁を効かせています。『シカゴ・コーリング(1956年録音)』では、グリフィンらしいハードな演奏を聴くことができます。
 Johnny Griffin — tenor saxophone
 Barry Harris - piano
 Ron Carter - bass
 Ben Riley - drums

ゴー/デクスター・ゴードン(1962年録音)
虚飾のない直球勝負が魅力。いわゆるテナーの典型的なイメージにぴったりの無骨な味わいに、ソニー・クラーク独特な暗い音色のピアノが添えられ、これぞジャズといった世界が広がります。そんなゴードンが気に入ったら次は、晩年のバド・パウエルとケニー・クラークのサポートが光る『アワ・マン・イン・パリ(1963年録音)』をどうぞ。
 Dexter Gordon – tenor saxophone
 Sonny Clark – piano
 Butch Warren – bass
 Billy Higgins – drums

ソウル・ステーション/ハンク・モブレー(1960年録音)
滋味に富むアドリブは細部にまで歌心が宿ります。ウイントン・ケリーやアート・ブレイキーの節度を保った煽りも聴き応えたっぷり。より闊達なブローを好む向きには『ワーク・アウト(1961年録音)』がお薦め。
 Hank Mobley — tenor saxophone
 Wynton Kelly — piano
 Paul Chambers — bass
 Art Blakey — drums

ソウルトレーン/ジョン・コルトレーン(1958年録音)
コルトレーンの音には艶があります。バラードから高速プレイまで、彼の多様なスタイルが詰まったお得盤。芸術性も薫ります。マイルスバンド時代の気心知れたバッキング陣の好サポートにも注目。後期コルトレーンならば、静謐な緊張感が支配した『クレッセント(1964年録音)』を推薦します。私にはちょっぴり難解ですが『バラード(1961-2年録音)』も人気盤。
 John Coltrane - tenor saxophone
 Red Garland - piano
 Paul Chambers - bass
 Art Taylor - drums

ザ・メッセージ/JR・モンテローズ(1959年録音)
ぶつぶつと呟くようなフレージングがモテローズの味。フラナガンとの息もぴったり。切々と歌い上げる息の長いバラードも泣かせます。ピート・ラ・ロカの土臭いドラミングも聴き逃せません。『イン・アクション(1964年録音)』でもしっとりとしたテナーを堪能できます。
 J. R. Monterose - tenor saxophone
 Tommy Flanagan - piano
 Jimmy Garrison - bass
 Pete La Roca - drums

パーティー・タイム/アーネット・コブ(1959年録音)
泥臭い田舎音が魅力を放つ。ガマカエルの屁のような醜怪なブローもここまで極めると痛快。レイ・ブライアントのピアノが渋い調味料を加える。単調なリズムの中に妙味を加えるアート・テイラーのドラミングも爽快。コブの下品さにハマったら、同時期にボビー・ティモンズレッド・ガーランドと共演したワンホーン盤も聴いてみてください。
 Arnett Cobb - tenor saxophone
 Ray Bryant - piano
 Wendell Marshall - bass
 Art Taylor - drums
 Ray Barretto - congas

ルック・アウト/スタンリー・タレンタイン(1960年録音)
タレンタインのワンホーンはちょっぴり辛口。無理のない迫力と気の利いた繊細さを併せ持った演奏スタイルは、ハードバップ王道の風格。バッキング陣の雰囲気も含めると本盤か『ザッツ・ホエア・イッツ・アット(1962年録音)』が本命でしょうが、フラナガンがバックに控える異色の名盤『Z.T.ズ・ブルース(1961年録音)』も安心して推薦できます。
 Stanley Turrentine - tenor saxophone
 Horace Parlan - piano
 George Tucker - bass
 Al Harewood - drums

ボス・テナー/ジーン・アモンズ(1960年録音)
アモンズのスイングは燻し銀。フラナガンの抑制の美学にアート・テイラーが一捻り加え、聴き応えのあるアルバムになっています。続く推薦盤はドド・マーマローサが伴奏で魅せる『ジャグ・アンド・ドド(1962年録音)』。
 Gene Ammons - tenor saxophone
 Tommy Flanagan - piano
 Doug Watkins - bass
 Art Taylor - drums
 Ray Barretto - congas

ザ・ガーシュイン・ブラザーズ/ズート・シムス (1975年録音)
息使いをじかに感じさせる丸い音で軽快にスウィングするシムス。私は後年の演奏が好み。ここではピーターソンのピアノとジョー・パスのギターをバックに、ガーシュウィンの名曲をゴキゲンに吹いています。より若い頃のアルバムでは、田舎道を行くような垢抜けないスタイルを貫いた『ダウン・ホーム(1960年録音)』と、都会的に澄んだセンスで魅せる『ルース・ブルース(1962年録音)』の対照的な両盤を推薦します。
 Zoot Sims - tenor saxophone
 Oscar Peterson - piano
 Joe Pass - guitar
 George Mraz - bass
 Grady Tate - drum

スタン・ゲッツ・クァルテッツ/スタン・ゲッツ(1950年録音)
甘美なサックスからまろやかに紡がれるアドリブラインは絶品。早熟な天才肌で1950年代から名盤が多いのですが、なかでも本盤はバック陣が白眉。なお、本国アメリカで評価の高いのは『スタン・ゲッツ・アンド・ジ・オスカー・ピーターソン・トリオ(1957年録音)』で、より朗らかな演奏を聴くことができます。後年の『スタン・ゲッツ&ビル・エヴァンス(1964年録音)』や『スウィート・レイン(1967年録音)』で見せる、また異なった雰囲気も好きです。
 Stan Getz – tenor saxophone
 Al Haig – piano
 Tommy Potter – bass
 Roy Haynes – drums

アート・テイタム・ベン・ウェブスター・クァルテット/アート・テイタム(1956年録音)
ウェブスターのワンホーン。コロコロと心地よく指の回るテイタムの伴奏に乗って、悠揚迫らぬブローが広がる。気取った革新性に無縁なところが潔く、かえって聴者の心を掴みます。ピーターソンと演った双璧の二盤『ベン・ウェブスター・ミーツ・オスカー・ピーターソン(1959年録音)』もしっとりと落ち着きます。
 Ben Webster – tenor saxophone
 Art Tatum – piano
 Red Callender – bass
 Bill Douglass – drums

プレス・アンド・テディ/レスター・ヤング(1956年録音)
落ち着いた雰囲気で統一され、安心して聴くことができます。上記のウェブスターの盤も同様で、旧懐さが漂う。
 Lester Young – tenor saxophone
 Teddy Wilson – piano
 Gene Ramey – bass
 Jo Jones – drums

ブルー・アンド・センチメンタル/アイク・ケベック(1961年録音)
ケベックのテナーは一聴すると狙った色気を感じますが、ビブラートもポルタメントも豪然と演奏し切っているので不思議とベトつきません。このアルバムではグラント・グリーンのギターがよい下地となっています。オルガン伴奏の『春のごとく(1961年録音)』も推薦アルバムです。
 Ike Quebec - tenor saxophone
 Grant Green - guitar
 Sonny Clark - piano
 Paul Chambers - bass
 Philly Joe Jones - bass

フォー・リアル/ハンプトン・ホーズ(1958年録音)
​ハロルド・ランドのワンホーン。この盤を推薦すると見識が疑われそうですが、素直にジャズを聴く楽しみがここにあります。コロラトゥーラのごとく軽快に転がるランドのプレイを、ラファロを大黒柱としたバック陣が支えます。ホーズのピアノが大人の滋味。
 Harold Land – tenor saxophone
 Hampton Hawes – piano
 Scott LaFaro - bass
 Frank Butler – drums

ザッツ・イット/ブッカー・アービン(1961年録音)
ジャズ変遷期を反映してか未来志向を感じさせる作り。アービンは音の選びが独特で、不思議と気だるい空気が漂います。ホレス・パーランもこの方向性に加担。
 Booker Ervin - tenor saxophone
 Horace Parlan - piano
 George Tucker - bass
 Al Harewood - drums

アウト・オブ・ジ・アフタヌーン/ロイ・ヘンンズ(1962年録音)
ローランド・カークのワンホーン。正統派の枠中でカークの多才さが生かされた好例。伴奏陣も豪華。『溢れ出る涙(1967年録音)』も注目盤。
 Roland Kirk - tenor saxophone, manzello, stritch, C flute, nose flute
 Tommy Flanagan -piano
 Henry Grimes -bass
 Roy Haynes -drums

ジュジュ/ウェイン・ショーター(1964年録音)
ショーターのウネウネとした音取りは中毒になります。
 Wayne Shorter - tenor saxophone
 McCoy Tyner - piano
 Reggie Workman - bass
 Elvin Jones - drums

インナー・アージ/ジョー・ヘンダーソン(1964年録音)
達人たちのバッキングに波乗ってテナーが爽快に歌う。ジョーンズの手数の多さが本盤ではうまく機能します。器用貧乏と誤解されがちなヘンダーソンですが、気持ちのよいハスキー音で作り上げる曲は巧みで何度聴いても飽きません。サイドメンとして参加した『ブラック・ファイアー(1963年録音)』『アイドル・モーメンツ(1963年録音)』『バスラ(1965年録音)』『リアル・マッコイ(1967年録音)』でも独特な世界観を築き、彼の柔軟さが伺えます。
 Joe Henderson - tenor saxophone
 McCoy Tyner - piano
 Bob Cranshaw - bass
 Elvin Jones - drums



アルトサックス(ワンホーン)

スイング・スワング・スインギン/ジャッキー・マクリーン(1959年録音)
強靭な探究心を持ちつつも、ヘタウマに徹する美学。本盤ではバックも名手たちが固め、マクリーンに似合った世界観を演出する。『ザ・ミュージック・フロム・ザ・コネクション(1960年)』でもセンスの溢れるB級演奏を披露しています。
 Jackie McLean - alto saxophone
 Walter Bishop Jr. - piano
 Jimmy Garrison - bass
 Art Taylor - drums

ファースト・プレイス・アゲイン/ポール・デズモンド(1959年録音)
デズモンドのワンホーンは、デイヴ・ブルーベックのリーダー作も含め、駄作が少なく一つに絞るのが難しいのですが、とりあえずこれを挙げます。甘美なアルトとメロウなギターが相乗的なマリアージュ効果を生んでいます。軟弱低俗なBGMに陥らないのはベースとドラムが自然体で締めているから。
 Paul Desmond - alto saxophone
 Jim Hall - guitar
 Percy Heath - bass
 Connie Kay - drums

ブルース・ウォーク/ルー・ドナルドソン(1958年録音)
存在感のある音ではないが、ソウルフルを可憐に纏うアルトはやはり魅力的。どのアルバムも水準の高いドナルドソンですが、本盤ではハーマン・フォスターの多重的な和音取りがカウンターバランスとして機能しています。コンガも快調。 より明るい雰囲気の『グレイヴィー・トレイン(1961年録音)』もぜひ。
 Lou Donaldson - alto saxophone
 Herman Foster - piano
 Peck Morrison - bass
 Dave Bailey - drums
 Ray Barretto - congas

シッツ・イン・ウィズ・オスカー・ピーターソン・トリオ/ソニー・スティット(1959年録音)
スティットにはパウエルとの歴史的な競演(1949-50年録音)もありますが、二者の方向性が一致しているという点で、私はピーターソンと演った本盤をとります。音楽の愉悦を共有した二人のスイング観が聴き手を問答無用にウキウキとさせます。
 Sonny Stitt - alto saxophone, tenor saxophone
 Oscar Peterson – piano
 Ray Brown – bass
 Ed Thigpen - drums

ジス・イズ・クリス/ソニー・クリス(1966年録音)
技術が安定しているので余裕のある曲作りができるのがクリスの売り。汗だく重量級の世界からは縁遠い、いつまでも聴いていたい愛すべきアルバム。若い日の『ゴー・マン!(1956年録音)』もクリスの熱とクラークの憂が有機融合した名演です。
 Sonny Criss - alto saxophone
 Walter Davis Jr. - piano
 Paul Chambers - bass
 Alan Dawson - drums

ウッドロア/フィル・ウッズ(1955年録音)
若きウッズの原点。高精度なリズム感で高速なパッセージを紡ぐ一方、バラードでも一音一音に神経の行き届いた安定感で魅せます。後年の『アライヴ・アンド・ウェル・イン・パリス(1968年録音)』でも、端正なプレイのまま熱狂を生む高い技術を聴かせます。
 Phil Woods - alto saxophone
 John Williams - piano
 Teddy Kotick - bass
 Nick Stabulas - drums

ナウズ・ザ・タイム/チャーリー・パーカー(1952-4年録音)
多くの言葉は要らないでしょう。パーカーの晩年の録音ながら、バック陣にも恵まれて往年のキレ味が顔を出します。
 Charlie Parker – alto saxophone
 Hank Jones, Al Haig - piano
 Percy Heath, Teddy Kotick – bass
 Max Roach – drums

ミーツ・ザ・リズムセクション/アート・ペッパー(1957年録音)
ペッパーらしさが滲む『モダン・アート(1956年録音)』と迷いましたが、録音の音質ではこちらのアルバムに軍配があがります。明るい音色で淀みなく紡がれるアドリブが彼の魅力。本盤はバッキングの安定感も抜群。
 Art Pepper - alto saxophone
 Red Garland - piano
 Paul Chambers - bass
 Philly Joe Jones - drums

ノウ・ホワット・アイ・ミーン/キャノンボール・アダレイ(1961年録音)
普段は明るく能天気なアダレイですが、ここではデリケートな演奏を披露し、エヴァンスの冷徹な音色が対比され、色気を帯びています。双方の妙なる融合。
 Cannonball Adderley - alto saxophone
 Bill Evans - piano
 Percy Heath - bass
 Connie Kay - drums

モーション/リー・コニッツ(1961年録音)
ピアノレスに挑んだ意欲作。斜に構えたフレージング、熱しない抑揚、鉄則を無視したテーマ展開。一筋縄ではいかないコニッツの異形世界が、余計な干渉をしないベースと疾走感の溢れるドラムによって、輪郭を浮き立たせます。難解な風体を装い、聴き応えも抜群です。
 Lee Konitz – alto saxophone
 Sonny Dallas – bass
 Elvin Jones – drums

アウト・ゼア/エリック・ドルフィー(1960年録音)
グループ演奏に名盤の多いドルフィーですが、ワンホーンではこの盤。ピアノの代わりにカーターのメディアスなチェロが入ります。ドルフィーにしては聴きやすい部類に入りますが、浮遊感のあるメロディーと個性的なフレージングは健在で、アルバムとしての完成度も高い。
 Eric Dolphy — flute, bass clarinet, alto saxophone, clarinet
 Ron Carter — bass
 George Duvivier — bass
 Roy Haynes — drums

ハイ・サイト/ケン・マッキンタイヤー(1974年録音)
ドルフィーと同じく多楽器プレイヤーながら、よりオーソドックスな傾向。ここでも高音やポルタメントを効果的に交え、多彩なスタイルを披露しています。ドリューのピアノも聴き逃せません。
 Ken McIntyre - alto saxophone, flute, bassoon, bass clarinet
 Kenny Drew - piano
 Bo Stief - bass
 Alex Riel - drums



トランペット(ワンホーン)

静かなるケニー/ケニー・ドーハム(1959年録音)
本来の熱いプレイを封印し、ここでは渋いソロを聴かせます。ちょっと不器用な朴訥なフレージングですが、フラナガンの好サポートを受けて、晦渋さが味わいへと開花します。繰り返し聴きたくなる不思議な魅力を湛えた一作。
 Kenny Dorham - trumpet
 Tommy Flanagan - piano
 Paul Chambers - bass
 Art Taylor - drums

アート/アート・ファーマー(1960年録音)
毒刺のない柔和な音がファーマーの特徴。一音一音を慈しむように丁寧に歌いあげます。ここでもフラナガンのピアノが重要な役回りをします。選曲も編曲ともによく、上記のドーハムの名盤ともに、夜中の一枚に最適。
 Art Farmer – trumpet
 Tommy Flanagan – piano
 Tommy Williams – bass
 Albert Heath – drums

コンプリート・パリ・セッション Vol3/クリフォード・ブラウン(1953年録音)
とくとくと湧き出る自然なインプロヴィゼーション。朗々と連らなる音列。精度の高い舌と指の連動。録音機材の制約か3分程度の短い曲ばかりですが、いずれも非の打ち所のない名演です。なによりブラウンのワンホーンは貴重。
 Clifford Brown – trumpet
 Henri Renaud – piano
 Pierre Michelot – bass
 Benny Bennett – drums

キャンディ/リー・モーガン(1957年録音)
切れ味の鋭い気迫に華やかな歌心が寄り沿いなんとも眩しいアルバム。巧みなフレージングを無理なく吹く様はこれぞトランペットという説得力があります。ワトキンスの骨太なベースが串刺しとなって統一感を醸し、クラークの情緒豊かなピアノが忘れがたい印象を残します。
 Lee Morgan - trumpet
 Sonny Clark - piano
 Doug Watkins - bass
 Art Taylor - drums

ブルーズ・ムーズ/ブルー・ミッチェル(1960年録音)
爽やかな音列。自然体すぎて全くスゴさを感じさせないというスゴさが良質な余韻を生みます。ケリーのピアノもいつもながらご機嫌。
 Blue Mitchell - trumpet, cornet
 Wynton Kelly - piano
 Sam Jones - bass
 Roy Brooks - drums

ブッカー・リトル/ブッカー・リトル(1960年録音)
タンギングの少ないフレージングで、芯の熱い音列をむせぶように吹き重ねてゆきます。ラファロはウォーキングベースを主体にリトルのソロを支えますが、ソロでは得意の高音フレーズを奏でます。ピアノとドラムがアルバムの品位と節度を死守しています。名演だけにマスターテープの紛失が残念。
 Booker Little - trumpet
 Tommy Flanagan, Wynton Kelly (tracks 3 & 4) - piano
 Scott LaFaro - bass
 Roy Haynes - drums

ワイルダーン・ワイルダー/ジョー・ワイルダー(1956年録音)
美しい素直な音色。過不足ない古典的な演奏スタイル。ハンク・ジョーンズのピアノもため息が出るほど美しい。以下に続けて挙げるカーソン、リース、コールズ、マギーの名盤を含めて、私にとって休息安堵のラッパ5大盤。バカテクとは無縁な、しかし、真のトランペット好きに推薦したいアルバムです。
 Joe Wilder - trumpet
 Hank Jones - piano
 Wendell Marshall - bass
 Kenny Clarke - drums

ファイヤー・ダウン・ビロウ/テッド・カーソン(1962年録音)
心地のよいセピア色のラッパで安全運転。少し「隠れた名盤」の薫りがしますが、ジャズを聴く幸せが素直に感じられる良質なアルバムです。時代の流れに敏感なヘインズのドラミングも聞き逃せません。モンテゴ・ジョー超絶技巧のコンガが軽やかムードを演出。
 Ted Curson - trumpet
 Gildo Mahones - piano
 George Tucker - bass
 Roy Haynes - drums
 Montego Joe - congas

サウンディン・オフ/ディジー・リース(1960年録音)
冒険しない滋味あふれるトランペット。タイトルとは裏腹にバラードから始まり、一気にリースの世界に引き込ます。ビショップJrが率いるバック陣も無理せずいい味を出し、末永く聴きたい一枚。
 Dizzy Reece - trumpet
 Walter Bishop Jr. - piano
 Doug Watkins - bass
 Art Taylor - drums

ウォーム・サウンド/ジョニー・コールズ(1961年録音)
コールズのラッパは音が気持よく高抜けます。しかし、これを誇示することなく、細やかな演出と周到な編曲で、曲を練り上げるのはコールズの人柄でしょうか。ケニー・ドリューのピアノも風格があり、メンバー全員のバランスが秀逸。
 Johnny Coles - trumpet
 Kenny Drew - piano
 Peck Morrison - bass
 Charlie Persip - drums

マギーズ・バック・イン・タウン/ハワード・マギー(1961年録音)
古き良い薫りの漂う演奏ですが技術も高い。ニューボーンのセンスの光る伴奏を聴かせます。
 Howard McGhee - trumpet
 Phineas Newborn Jr - Piano
 Leroy Vinnegar - Bass
 Shelly Manne - Drums

バード・ブロウズ・オン・ビーコン・ヒル/ドナルド・バード(1956年録音)
瑞々しいトランペット。生硬さを残しつつ本領を発揮。ダグ・ワトキンスの太いベースが屋台骨。バラードもミュートも素晴らしい。
 Donald Byrd - trumpet
 Ray Santisi - piano
 Doug Watkins - bass
 Jimmy Zitano - drums

ザ・ミュージング・オブ・マイルス/マイルス・デイヴィス(1955年録音)
脂肪をそぎ落とし最小限の音数で勝負するマイルスの歌は、ほどよく抑制が効いて不思議と閑か。膨よかな中音部、鋭く突き抜けるミュート。オスカー・ペティフォードをはじめバックも充実。マイルスのワンホーン盤は珍しく、彼の音楽観を知る資料としても貴重。
 Miles Davis – trumpet
 Red Garland – piano
 Oscar Pettiford – bass
 Philly Joe Jones – drums

カルテット/チェット・ベイカー(1953年録音)
若き日のベイカーが輝かしいソロを奏でます。迷いのない表現力も高度な演奏技術も輝かしいばかりで、ラス・フリーマンと共に西海岸ジャズを体現します。録音年代にしては良好な音質。1956年にも類似のメンバーで同名のアルバムがあり双璧です。
 Chet Baker - trumpet
 Russ Freeman - piano
 Bob Whitlock (tracks 1-4), Carson Smith - bass
 Bobby White (tracks 1-4), Larry Bunker - drums

インタープレイ/ビル・エヴァンス(1962年録音)
フレディー・ハバードのワンホーン。ミュートでも素晴らしい演奏を聴かせます。メンバー5人のバランスが見事。同じくサイドメンとして参加した『エンピリアン・アイルズ(1964年録音)』ではモダンなラッパを披露します。
 Freddie Hubbard - trumpet
 Jim Hall - Guitar
 Bill Evans - Piano
 Percy Heath - Bass
 Philly Joe Jones - Drums

イン・オービット/クラーク・テリー(1958年録音)
ほんわかとしたテリーのプレイにモンクが風味を添える。さらにくだけた雰囲気の『オスカー・ピーターソン・トリオ+1(1964年録音)』も好きです。
 Clark Terry – flugelhorn
 Thelonious Monk – piano
 Sam Jones – bass
 Philly Joe Jones – drums

スタンダード・タイム Vol.1/ウイントン・マルサリス(1986年録音)
どんな演奏スタイルでも魂をこめて丁寧な演奏を繰り広げます。伝統に則りつつも斬新なスタンダートの解釈。唄心から超絶技巧まですべての完成度が高いのが魅力です。ハンコックとの『カルテット(1981年録音)』も若さが溢れた名盤です。
 Wynton Marsalis - trumpet
 Marcus Roberts - piano
 Robert Leslie Hurst III - bass
 Jeff "Tain" Watts - drums

アフターアワーズ/ダスコ・ゴイコビッチ(1971年録音)
モダンなのにどこか土臭い。高速なプレイでの推進力や静謐なバラードでの陶酔感など聴きどころの多いアルバムです。
 Dusko Goykovich - trumpet
 Tete Montoliu - piano
 Rob Langereis - bass
 Joe Nay - drums

ヌー・ハイ/ケニー・ホイーラー(1975年録音)
フリューゲルホルンで柔和な世界観を作っているのに軟弱にならないのは音選びに芯があるからでしょうか。キース・ジャレットの率いるリズム隊が緊張感を生み、わずか3曲のアルバムなのに満足度が高いです。
 Kenny Wheeler - flugel horn
 Keith Jarrett - piano
 Dave Holland - bass
 Jack DeJohnette - drums



その他(ワンホーン)

ブルー・トロンボーン/JJ・ジョンソン(1957年録音)
トロンボーンの温かい音色は何にも代えがたい。とくにジョンソンのトロンボーンは驚くほど表現の幅が広い。鉄壁なテクが健全に活かされるのは音楽性の高さゆえでしょうか。リズム3名手の落ち着いた芸を聴かせます。
 J.J. Johnson - trombone
 Tommy Flanagan - piano
 Paul Chambers - bass
 Max Roach - drums



ヴォーカル(伴奏が小編成のものを主に選定しています)

ソングス・イン・ア・メロウ・ムード/エラ・フィッツジェラルド(1954年録音)
フィッツジェラルドのアルバムは本盤にトドメを刺す。ピアノ伴奏のみで歌い切る歌唱力。張りのある声はそれだけでも存在感抜群。なにより聴く人を明るい気分にさせる声質は他のジャズシンガーにはなかなか求められません。
 Ella Fitzgerald - vocals
 Ellis Larkins - piano

アフター・グロウ/カーメン・マクレエ(1957年録音)
技術と歌心のセンスある融合。知情意のバランスに優れたマクレエの歌唱力が、レイ・ブライアントの滋味深いピアノをバックに、目一杯に発揮されています。
 Carmen McRae – vocals
 Ray Bryant – piano
 Ike Isaacs – bass
 Specs Wright – drums

アフター・アワーズ/サラ・ヴォーン(1961年録音)
ウィズ・クリフォード・ブラウン(1954年録音)』や『枯葉(1982年録音)』などの超名盤も捨てがたいですが、高度な技術に裏打ちされた彼女の歌は、本盤のような小編成のバックでこそ輝きます。典型的すぎるくらいにジャズっぽい完成度の高いアルバム。よりスイングした歌唱を披露する『スインギン・イージー(1954年録音)』も小編成アルバムです。
 Sarah Vaughan – vocal
 Mundell Lowe – guitar
 George Duvivier – bass

アニタ・シングス・ザ・モスト/アニタ・オディ(1957年録音)
丁寧な歌唱と音符を無視したつぶやくような歌唱が交錯する独特な個性。声質の美しさや音域の広さよりも、卓越したリズム感と表現力で勝負。バック陣にも華があります。
 Anita O'Day - vocals
 Oscar Peterson - piano
 Herb Ellis - guitar
 Ray Brown - bass
 John Poole - drums

ジス・イズ・クリス/クリス・コナー(1955年録音)
バードランドの子守唄(1953年録音)』も名唱ですが、録音の良さではこちら。ハスキーで繊細な声は、とくに低音域から中音域に、悠揚迫らぬ色気を感じます。
 Chris Connor - vocals
 Herbie Mann - flute, tenor saxophone
 Joe Puma - guitar
 Ralph Sharon - piano
 Milt Hinton - bass
 Osie Johnson- drums

ジ・インティメイト・ミス・クリスティ/ジューン・クリスティ(1963年録音)
月光のよう妖しさを放つ硬質な声にフルートの音がブレンドされます。同じく小編成バックの『ザ・クール・スクール(1960年録音)』でも彼女の魅力を堪能できます。
 June Christy - vocals
 Bud Shank - flute
 Al Viola - guitar
 Don Bagley - bass

ワルツ・フォー・デビイ/モニカ・ゼタールンド(1964年録音)
夜空に漂うようなゼタールンドの歌に合わせて、仄かに煌めくエヴァンスの伴奏。華美を排して落ち着いて聴かせるアルバムです。イスラエルの湿ったベースが影で主役。
 Monica Zetterlund – vocals
 Bill Evans – piano
 Chuck Israels – bass
 Larry Bunker – drums

ブロッサム・ディアリー/ブロッサム・ディアリー(1956年録音)
耳元でささやいてくれているかのような甘えた声がディアリーの特徴。弾き語りのピアノは、かつてピアニストとして活躍したほどの腕前。
 Blossom Dearie – vocals, piano
 Herb Ellis – guitar
 Ray Brown – bass
 Jo Jones – drums

シングス・フォー・プレイボーイズ/ベヴァリー・ケニー(1957年録音)
「圧倒的なジャズ歌唱力」からは正反対の世界にいるケニーですが、逆に、そっとと隣に寄り添ってくれる不思議な魅力に満ちた清楚なアルバム。
 Beverly Kenney – vocals
 Ellis Larkins – piano
 Joe Benjamin – bass

ブルー・バートン/アン・バートン(1967年録音)
自然体の歌唱で魅せる癒しのアルバム。同じくしっとりと聴かせる。
 Ann Burton - vocals
 Louis Van Dijk - piano
 Jaques Schols - bass
 John Engels - drums

ザッツ・ヒム/アビー・リンカーン(1957年録音)
ときに聴き手を疲れさせる個性を見せるリンカーンですが、このアルバムでは典型的なジャズを聴かせてくれます。伴奏陣もピカいち。
 Abbey Lincoln - vocals
 Kenny Dorham - trumpet
 Sonny Rollins - tenor saxophone
 Wynton Kelly - piano
 Paul Chambers - bass
 Max Roach - drums

ナンシー・ウィルソン&キャノンボール・アダレイ/ナンシー・ウィルソン(1961年録音)
癖のない美声でストレートに心に響きます。伴奏陣の活躍も聴きどころのひとつ。
 Nancy Wilson - vocals
 Cannonball Adderley - alto saxophone
 Nat Adderley - cornet
 Joe Zawinul - piano
 Louis Hayes - drums
 Sam Jones - double bass

ブラック・コーヒー/ペギー・リー(1954-6年録音)
色っぽい歌唱を披露する、そこはかとなく気だるさが纏うアルバム。
 Peggy Lee - vocals
 Stella Castellucci - harp
 Lou Levy - piano
 Bill Pitman - guitar
 Buddy Clark - bass
 Larry Bunker - drums, vibraphone, percussion

レディ・イン・サテン/ビリー・ホリディ(1958年録音)
潰れた声帯から捻り出される老醜にして異様な世界。美しいとか心地よさといった表層的な基準では価値の見いだせない、底の知れない魅力を放つこの盤。
 Billie Holiday -vocal
 George Ockner - violin
 Milt Hinton - bass
 Osie Johnson - drums
 ほか

ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン/ヘレン・メリル(1954年録音)
耳に残る色気。絶妙な音程どりと無理のない発声によって、若さも勢いも巧みに消化されます。クインシー・ジョーンズの如才ない編曲に導かれて、クリフォード・ブラウンが滑らかフレーズを挟み込みます。
 Helen Merrill - vocals
 Clifford Brown - trumpet
 Danny Bank - bass clarinet, flute, baritone saxophone
 Jimmy Jones - piano
 Barry Galbraith - guitar
 Milt Hinton - bass
 Osie Johnson - drums

トニー・ベネット&ビル・エヴァンス・アルバム/トニー・ベネット(1975年録音)
エヴァンスが透徹したピアノを奏で、ベネットがしっとりと歌い上げます。二人が対等のウェイトでプレイを進めつつ独特な世界観を築きあげていく、そのプロセスが魅力。
 Tony Bennett - vocals
 Bill Evans - piano

シングズ/チェット・ベイカー(1956年録音)
陰影の曇る不健康な声でぼそぼそと歌う。巧さはよりも旨みで勝負。高い人気も納得できます。
 Chet Baker - vocals, trumpet
 Russ Freeman - piano, celesta
 Carson Smith - bass
 Bob Neel - drums

ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン/ジョン・コルトレーン(1963年録音)
スローテンポな曲を中心に、軟弱なくらい甘美な歌とサックスが続くのに、アルバムとしてダレないのは、リズムセクションが締めているから。マッコイ・タイナーがリリカルながらも芯のあるピアノを奏でます。
 Johnny Hartman - vocals
 John Coltrane – tenor sax
 McCoy Tyner – piano
 Jimmy Garrison – bass
 Elvin Jones – drums

ロマンス/オスカー・ピーターソン(1954年録音)
特段に歌が上手いようには感じませんが、そこが味。軽妙なアルバムの作りで、気軽に楽しむことができます。
 Oscar Peterson - vocal, piano
 Ray Brown - bass
 Barney Kessel - guitar
 Herb Ellis - guitar

ゲッツ/ジョアン・ジルベルト&スタン・ゲッツ(1963年録音)
ボサノヴァのリズムに乗って小洒落たジャズが繰り広げられます。ゲッツのテナーサックスもジルベルト夫妻に負けずよく歌っています。
 João Gilberto - vocals, guitar
 Stan Getz - tenor saxophone
 Antonio Carlos Jobim - piano
 Sebastião Neto - bass
 Milton Banana - drums
 Astrud Gilberto - vocals



ピアノ・トリオ

気が向いたらアップします。



ワンホーン以上のハード・バップ

気が向いたらアップします。ドルフィーやマイルスやショーターをよく聴きます。ロイ・ヘインズとピート・ラロカを贔屓。


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