6/11


LTPのメカニズム
 それではLTPはどの様にして生じるのでしょうか。その生成のメカニズムについて考えてみましょう。LTPの生成機構は大きく2つあるといわれています。右図に示してみました。1つ目の機構は、神経伝達物質の放出の増大です。いま、AとBの神経細胞が図のようにシナプスを形成しいるとします。そしてAからBへ信号が送られるのですが、この信号は神経伝達物質によって媒介されています。この点でコンピューターの電気回路と、脳の神経回路は決定的に異なります。電気回路では、あくまでも電気が流れることで信号が伝えられるのですが、神経回路においては、神経細胞から神経細胞への信号は、Aが放出する神経伝達物質をBが受け取るという形で伝えられるのです。神経伝達物質は神経細胞によって様々なのですが、LTPが生じる海馬のシナプスでは、私達には「味の素」として馴染みの深いグルタミン酸が神経伝達物質として用いられています。1つ目の機構は、LTPとはまさにこのグルタミン酸の放出量が増えることによってシナプスの伝達効率が上昇することなのであろうという考え方です。これはAの神経細胞が変化することで生じることを意味していますので、私達は「LTPのシナプス前細胞の機構」と呼んでいます。
 これに対して、グルタミン酸の放出量には変化はなく、Bのグルタミン酸に対する感受性が上昇しているのだという考え方があります。これが2つ目の機構です。かりにグルタミン酸の放出量が変わらなくても、Bのグルタミン酸に対する反応性が上昇すれば、つまり同じ量のグルタミン酸に対してもBがより強く反応すれば、やはりシナプスの伝達効率はよくなります。これは1つ目の機構とは異なり、Bの神経細胞が変化することによって生じるので、「LTPのシナプス後細胞の機構」と呼ばれます。以上の2つの説は、どちらが正しいのかという点で長年大きな論争となってきましたが、現在ではおそらく2つの機構が共に関与するのだろうと考えられます

戻る   次へ